沖縄県政の刷新を求める会

県警検問控訴断念慰謝料返還訴訟

準備書面2準備書面2

準備書面2

準備書面2(原告)

平成30年11月6日
(次回期日:平成30年12月5日)


第1 準備書面1の第1(本案前の抗弁に対する反論)の補充
  1. 公金の支出を行なった「当該職員」としての長について
    • (1) 4号請求において義務付けを求める請求等の相手方とされる「当該職員」とは、住民訴訟制度が違法な財務会計上の行為又は怠る事実を予防又は是正し、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであることからすると、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして同権限を有するに至った者を広く意味するとされている(最二小判昭和62年4月10日民集41巻3号239頁)。

    • (2) 法242条1項は、「長、委員長、委員」と「職員」とを書き分けており、同条3項、4項及び242条の21項柱書は、「議長、長、その他の執行機関」を書き分けているので、同項4号の「当該職員」には「委員」や「長その他の執行機関」の地位ないし職にあった者は含まれないのではないかとの疑問が生じないではないが、法は、地方公共団体の長に予算の執行権や支出命令権を付与し(法149条2号、232条の4第1項)、また、出納長及び収入役に現金の出納等会計事務の権限を付与しているので(法170条1、2項)、これらの者は、公金の支出に関しては、その「権限を法令上本来的に有するとされている者」に該当すると考えることができる(甲13:調査官解説p134)

    • (3) それゆえ、長は、その権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為をあらかじめ特定の職員に委任することとしている場合であっても、同財務会計上の行為の適否が問題とされている住民訴訟において「当該職員」に該当する(最三小判平成5年2月16日民集47巻3号1687頁)。
       故意・過失の判断についても、「当該職員」たる長において判断すべきであって、補助職員に委任・専決させた長については、補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により補助職員が財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害について損害賠償責任を負う。

    • (4) 本件請求の趣旨第1項の「被告知事」は執行機関としての沖縄県知事であり、相手方である「翁長雄志」は、当該職員たる長である。そのことは、違法な財務会計上の行為を控訴断念の結果確定した判決に基づいて行なわれた公金の支出であると捉えた場合であっても(準備書面1第1-2)、控訴断念の行為そのものを違法な財務会計上の行為であると捉えた場合(同第1―3)であっても、全く同じである。

  2. 怠る事実の違法確認(3号請求)に関して
    • (1) 原告は、沖縄県知事翁長雄志による本件控訴の断念(控訴を怠る事実)が違法であることを主張しているが、その法律構成を地方自治法244条の2第4号所定の損害賠償の請求をすることの義務付け請求に求め、同第3号所定の当該怠る事実の違法確認の請求をしていない。
       その理由は、過去に「かった事実」があっても、その不作為の違法状態を解消するための作為義務を履行する余地がなくなった場合は、その違法確認を求める3号請求は不適法と解されているからである(大津地判平成18年6月19日判例地方自治286号65頁)。

    • (2) 他方、最高裁は4号請求と3号請求の併合を認めているところ(最高裁平成13年12月13日民集55巻7号1500頁)、4号請求は、当該違法による損害の立証が求められる点で3号請求よりハードルが高い。思うに、3号請求は違法と確認された怠る事実にかかる違法の解消を目的とするものであり、当該違法を解消するための作為義務を履行する余地がなくなり、当該怠る事実が「過去の違法」となった場合は、専ら損害賠償ないし不当利得返還請求の義務付けに係る4号請求に住民訴訟の目的(違法な財務会計上の行為又は怠る事実を予防又は是正し、もって地方財務行政の適正な運営を確保すること)を委ねるのが法の趣旨であると解される。

    • (3) それゆえ、当該怠る事実の違法が明らかである場合、4号の損害賠償の対象となる損害概念を広くかつ柔軟に捉えるべきである。例えば、本件においては本件控訴断念によって確定した判決に基づく30万円の支払を沖縄県が被った損害だと認定するには、本件控訴を行なった場合に沖縄県が逆転勝訴したであろう高度の蓋然性の立証が必要になるとの見解がありうるところであるが、その場合、仮にこれが認められない場合においても、医療過誤訴訟における不作為による違法類型において認められる治療機会の喪失を損害とする手法(例えば、為すべき治療を行なっても、救命の確率は3割程度だったと認められる場合、怠る事実と死との因果関係〔救命の高度の蓋然性〕は認められないが、相当程度の可能性がある場合、治療機会の喪失そのものを損害とし、その金銭評価をもって賠償を認めるもの)を適用し、「勝訴機会の喪失」そのものを損害として捉えるべきである。

第2 被告知事による本件控訴断念行為の違法性
  1. 本件控訴にかかる被告知事の議案提出権の行使について
    • (1) 執行機関の多元主義
       地方自治法は基本的組織原理として執行機関の多元主義を採用している。執行機関とは、議決機関たる議会による議決事項(法96条)以外の所掌事務について独立した管理・執行権をもち、地方公共団体としての意思を自ら決定し、外部に表示することができる機関をいう(138条の2)。
       執行機関の多元主義とは、長の外に、教育委員会、選挙管理委員会、公安委員会といった執行機関を設け、これら複数の執行機関から構成される行政の仕組みをいい、執行機関の組織は、長の所轄の下に、それぞれ明確な範囲の所掌事務と権限を有する執行機関によって、系統的にこれを構成しなければならないとされている(法138の3第1項)。
       このように地方自治法は、長への権限集中を避け、複数の執行機関に権限を分掌させ、それぞれが独立して事務を処理することによって行政の民主的かつ中立公平な運用がなされることを期待しているのである【甲14:「要説地方自治法(第四次改訂版)」p264】

    • (2) 公安委員会の設置
       執行機関としての委員会又は委員が所掌している業務は、①政治的中立性若しくは公平・公正・中立を有する、②執行について専門技術若しくは利害調整的な視点からの配慮を特に要する又は、③準司法的若しくは準立法的性格を有する等の性質を具備しているといわれている。地方自治法が長の外に設置を義務付けている執行機関は、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会及び監査委員会、公安委員会、労働委員会、収容委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会、農業委員会、固定資産評価審査委員会かある(法180条の5)。
       公安委員会は、都道府県知事の所轄の下に置かれる(警察法38条1項)。都道府県知事の「所轄」とは、警察の運営についての直接的な指揮命令権を含むものではなく、公安委員会の委員の任免に関する権限のほか、警察に関する議案、条例、予算等に関する権限であり(法180条の6)、これらの所轄権限を除いて、公安委員会が都道府県警察を管理する権限を有するとともに責任を負うものとされている。

    • (3) 所轄権限の行使に関する「一体的発揮」の要請
       地方自治法は、予算の調整・執行、議案の提出、地方税の賦課・徴収、決算を議会の認定に付することといった権限については、委員会又は委員の所轄事項であっても、委員会又は委員には権限を与えずに、所管権限を有する長の権限としている(法180条の6)。
       その趣旨は、委員会又は委員はそれぞれ独立の職務権限を有するものではあるが、議決権限あるいは広く住民一般との関係における管理・執行権限の統一ある行使を期し、財政運営の一元的処理を量ることにより地方公共団体の一体性を確保しようとするものであるとされている。
       そのため地方公共団体の執行機関は、地方公共団体の長の所轄の下に、執行機関相互の連絡を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならない(法138条の3第2項)。そこにいう「一体として、行政機能を発揮する」とは、「地方公共団体の執行機関は、それぞれ分立し、その管理・執行の分野は各々別個であるけれども、当該地方公共団体の機能の各部分をそれぞれ担当しているわけであるから、当該地方公共団体の機能としてみた場合には、各執行機関の事務の管理・執行が全体としての調和をもって無駄なくその効果が発揮されているようにしなければならないという意味である」【甲14:「要説地方自治法(第四次改訂版)」p328】
       長もまた地方公共団体の執行機関である。行政機能の統一的発揮のために長に賦与された所轄権限は、まさしく多元的な執行機関による行政機能を一体的に発揮するため、執行機関相互の連絡を図って行使されなければならないことは論理的必然である。すなわち、長は所轄権限の行使にあたり、各執行機関が長から独立して所管する行政部門の意思決定を尊重し、特段の事情のない限り、これに従うべきであると解される。
       被告知事による本件控訴に関する議案の提出は、長に賦与された所轄権限そのものであり、上述の「一体として、行政機能を発揮する」という法の基本原理に則ってなされなければならない。すなわち、被告知事は、沖縄県警に委ねられた警察行政に関する事務については職務権限を持たないのであるから、本件控訴に係る議案の提出については、特段の事情のない限り、沖縄県警の意思決定を尊重しなければならなかったというべきである。

  2. 沖縄県警による本件控訴に係る議案の準備について
     沖縄県警は、沖縄県警による自動車検問と職務質問の違法によって慰謝料の支払を求めた訴訟につき、沖縄県警における違法を認めて請求を一部認容した平成30年1月16日那覇地裁判決【甲2】を不服として控訴する意向を強く持ち【甲5】、監察課訟務係の國仲嘉一警部の起案による「損害賠償請求の控訴に伴う議案提出について(案)」につき、筒井沖縄県警本部長、阿波連公安委員長らの決済を受け、平成30年第2回臨時会において乙第1号議案として提出し、沖縄県議会の議決を得るべく準備を整えていた【甲4】。
     しかしながら、沖縄県知事である翁長雄志は、控訴しないことを決定し、当該議案を県議会に提出しなかったことから、本判決は、控訴期間の経過によって確定するに至った。
     なお、翁長知事は、控訴断念にあたり、一審判決といえども司法判断は尊重すべきであるとのご都合主義的なコメントを発しているが【乙1】、これによって行政機関の長として自らが代表すべき沖縄県警の判断と意思は無視され、踏みにじられることになった。
  3. 結論
     沖縄県内の警察行政は、独立の執行機関である公安委員会が所管し、長である沖縄県知事は、警察行政の内容に介入することはできない。地方自治法が多元主義を採用し、警察行政の中立公正のため、知事の権限から切り離したのである。但し、警察行政に関する議案の提出は、長である沖縄県知事の所轄権限である。これは行政の「一体的発揮」の要請を確保するためであり、それゆえ沖縄権知事は、その権限を行使する当たり、特段の事情のない限り、当該行政部門である沖縄県警の意思決定を尊重すべきであった。
     沖縄県警による自動車検問及び職務質問の違法性を判示した本件判決に対し、沖縄県警が不服をもち、控訴の意思を表明し、控訴に必要な議会の承認を得るべく、沖縄県知事による議案の提出を準備していたところ、敢えて沖縄県警の意思と判断に反し、控訴断念を表明し、控訴に必要な議案の提出をしなかった翁長知事による議案提出権の不行使につき、所轄権限の「一体的発揮」の要請に反する違法があることは明白である。

以上

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