沖縄県政の刷新を求める会

万国津梁会議設置支援業務委託料返還訴訟

準備書面1準備書面1

準備書面1

準備書面1(原告)

令和2年9月15日


第1 本件契約に関する違法性について
  1. 本件契約締結における違法性
     原告らは本件契約の締結における違法性について、①一般社団法人子ども被災者支援基金が参加資格要件を満たしていなかったこと、②複数の業者による企画提案の比較検討がなされていなかったこと、と併せ、③委員の報酬額設定の単価(日額2万7000円)が、沖縄県特別職に属する非常勤職員の報酬及び費用弁償に関する規則で定めた日額単価9300円を遥かに超える高額で見積りされていることを挙げていた。
     ところで「会合」にかかる委員の報酬額については、別途謝礼金(報償額)支払基準があり、「会合」すなわち「有識者等の意見を聴取し、当該意見を県の行政上の意思決定に参考とすることを主たる目的として、要項等に基づき開催される連絡会、懇談会その他の会合(協議会、委員会、連絡会、懇話会、研究会等の名称如何にかかわらず、当該目的の下で開催される会合をいう。)」の構成員に対する謝礼金(報償費)は、日額8400円とすることが「審議会の構成員に対する謝礼金支払基準について(通知)」(甲8)に規定されており、平成18年4月1日から適用されていたことが新たに判明したため、その旨主張を変更する。因みに、本件事業終了後の令和2年度に発足した同一事業を行う万国津梁会議に関する委員の報酬費は、原則として同規定どおりの8400円とされている。
     もっとも、沖縄県が作成した「企画提案仕様書」(乙2)には、「会議委員への報償費」として日額2万7000円とする記載があり、この仕様書に基づいて応募した本件スタートチームとの契約において日額2万7000円とすることに問題はないとの見方があるが、それは委員報償費の規定を看過するものであって到底容認できない。
     原告らは、本件事業にかかる本件契約の真相は、被告沖縄県知事による本件スタートチームの沖縄事務所所長を務めていた徳森リマ(以下「訴外徳森」という。)らに対する選挙活動に対する勲功恩賞(お手盛り)であると見ているところ、沖縄県による企画提案仕様書の前記記載における謝礼金支払基準違反の違法は、その見方を補強するものでしかない。

  2. 計画変更の承認等に係る違法性
     本件契約を証する委託契約書(甲4。以下「本件委託契約書」という)は、沖縄県を発注者とし、一般社団法人子ども被災者支援基金を代表者とする本件スタートチームを受注者として締結されたものであるが、「乙(本件スタートチーム)は、仕様書に定めるところにより、契約の履行について甲(沖縄県)に報告しなければならない。」(第6条)とされ、仕様書又は業務関する指示を変更するときは、変更内容を予め通知することが求められており、委託費の経費区分ごとに配分された額を変更しようとするとき(ただし、各配分額の10分の2以内の流用増減であって、あらかじめ沖縄県に報告したものを除く)、又は、委託事業の内容を変更しようとするときは、「あらかじめ業務実施計画変更申請書を甲(沖縄県)に提出し、その承認を受けなければならない。」としている。
     ところが、本件業務の遂行において本件スタートチームは、①第6条の履行報告を怠り(概算払い後に問題が表面化するまで同条が規定する仕様書の定めるところによる履行報告を一切行なっていない。)、②あらかじめ沖縄県の承認を得ることなく、委託事業の内容を変更した(5つの分野の会議を3つの分野に絞ったことと、全部で10回行うはずの会議を5回に留めていたこと)ものであり、その契約不履行の違法は明らかであったにもかかわらず、その確認ないし査定を怠り、本件スタートチームの求めるままに後述の「概算払い」に応じた違法がある。

  3. 概算払いの請求に応じた違法性
     本件委託契約書第14項1項に「乙(本件スタートチーム)は、委託業務が完了したときは、その旨を甲(沖縄県)に通知しなければならない。」とし、同条4項で業務完了を確認するための検査を行なった後に支払うべき委託料の額が確定することが定められている。続く、第15条の1項に、「前条4項の通知を受けた際には、業務委託料の支払いを請求することができる。」とあり、これが委託業務料の確定と支払いに関する原則とされている。ところで、被告は、本件では概算払の方法が採用されており、もともと事後の精算が予定されているから進捗度合いを査定することなく概算払に応じることができる旨いう。確かに、本件委託契約書第16条には概算払いの規定があり、同2項には「本件契約締結後、委託業務着手時に業務委託料の10分の3に相当する額」及び「委託事業の進捗度合いに応じて業務委託料の10分の9に相当する額」の概算払いを請求することができる旨の規定がある。
     しかし、本来は業務委託料の確定後に支払うべきものとされ、規定上、概算払いは例外として扱われており、更に、「10分の3に相当する額」の概算払であればともかく、「10分の9に相当する額」の概算払については、事業の進捗度合いに応じて支払うことが明記されている以上、事業の進捗度合いを無視して、10分の9に相当する額の概算払いを請求することも、進捗度合いの確認もしないでこれに応じて支払うことも本件委託契約書の定めに違反することは明白である。
     加えて、前記のとおり、本件スタートチームからの仕様書に基づく契約の履行の報告もなく、あらかじめの申請もなく事業計画の変更がなされ、これを放置していたことを併せ鑑みると、発注者である沖縄県は、本件スタートチームからの概算払いの請求についても所定の査定や確認を行うことなく、請求どおり業務委託料の10分の9に相当する金額を支払ったことが浮き彫りになる。
     それが発注者である沖縄県が果たすべき県の財務会計上の注意義務に違反する所為であったことはあえて論じるまでもなかろう。

  4. 事後的処理について
     沖縄県ないし被告沖縄県知事は本件スタートチームに対し、原告らが本件住民監査請求を行なった後になって、急遽、訴外徳森が失踪する前後から放置されていた本件事業の未達成分を行なわせ、結果として辻褄を合わせてきているが、これによって既に発生している前記各違法等(本件契約の締結にかかる違法性、契約変更の承認等にかかる違法性、概算払請求に応じた違法性)が解消するわけではない。

第2 査定の不適正と損害について
  1. 査定の適正にかかる疑問点Ⅰ(積算表をそのまま認める査定の当否)
     被告による損害に関する主張は、要するに、すでに支払った委託料について「適正」な査定をし(乙9)、その査定に基づく精算がなされ、査定を上回る金額については、受託者たる本件スタートチームから返納させているため、本件委託契約に関する「損害」はないというものである。
     ところで、この査定は、本件スタートチームが提出した積算表(乙8)に基づいてなされ、積算表の金額がそのまま適正とされており、しかも、積算表の金額は、各項目について合計金額が記載されているだけであり、詳細は全く明らかとされていない。これでは、当該査定が「適正」なものかどうかについては全くわからないと言わざるをえない(なお、本件では当該査定の「適正」は被告において立証責任を負っている)。

  2. 査定の適正にかかる疑問点Ⅱ(見積り超過の人件費の当否)
     本件スタートチームから提出された積算表では、人件費が当初の見積り金額(甲7)を大幅に超えたものとなっている。積算表では合計金額が記載されているだけであり、査定の基準も適正と判断された根拠も不明である。
     例えば、積算表によれば、統轄責任者鈴木理恵代表にかかる人件費は、令和元年5月から令和2年3月まで合計394万5920円であり、これは時給に換算すると1038時間相当となる。果たして、愛知県愛西市在住の鈴木代表が沖縄において、それほどの時間をかけてどのような仕事をしたというのだろうか。全く不明である。因みに、当初の見積りでは、統括責任者の時間は421時間で159万9800円であった。

  3. 査定の適正にかかる疑問点Ⅲ(過大な事務局経費の当否)
     積算表では、事務局旅費(事務局員の県外での旅費)は、合計158万5142円、事務局滞在費(県外での宿泊代)は合計20万1979円とされており、これが適正なものと査定されている。
     本件スタートチームの代表である本件子ども基金は、過去、沖縄県においてなんら活動実績のない山形県所在の社団法人である。しかしながら、事務局専従スタッフの訴外徳森が、沖縄事務所長として沖縄に定住し、活動することになっていた。ところが、沖縄事務所長の訴外徳森が失踪したことから、県外在住の事務局員が沖縄に来るための旅費・滞在費が計上されているようである。本来、訴外徳森が失踪したのであれば、後任の事務局(専従スタッフ=沖縄事務所所長)を選任すべきところ、鈴木代表もしくは他の県外在住者の旅費・滞在費が嵩んだからではないかと推測されるところである。
     そうだとすれば、速やかに後任の事務局(沖縄事務局所長)を選任しないまま旅費等の費用が嵩んだことの責任が問われてしかるべきではないか。本当に訴外徳森の代わりに沖縄県に渡航したのかどうかなどなど、疑問はつきない。少なくても、何のために、事務局経費(旅費と事務局滞在費)が膨張することになったのか、その理由は適正かを査定しなければならないはずであり、この点についても明らかにする必要があると思われる。

第3 求釈明の申立て
  1. 人件費にかかる精算表の根拠について
     人件費について、当初の見積りを大幅に超える金額で提出された積算表の金額の内訳(特定人ごとの仕事時間、仕事内容)及び算定の基準、並びにその適正について、どのような根拠・基準に基づいて査定したのか、その根拠となる資料(各スタッフからの請求書など)とともに明らかにされたい。

  2. 旅費滞在費の明細について
     旅費滞在費について、その明細(旅費については、利用者の氏名、方法、区間、料金等。滞在費については個々の氏名、滞在場所、滞在費用、回数等)を明らかにされたい。

  3. 委員報償費に関する支払基準との関係について
     沖縄県には、前記のとおり、「会合」にかかる委員の謝礼金について、日額8400円とする旨の委員謝礼金(報償費)支払基準がある(甲8)。しかるに、沖縄県が作成した「企画提案仕様書」(乙2)には委員の報償金につき日額2万7000円とする旨の記載がある。いやしくも委員謝礼金(報償費)に関する支払基準があるところ、これに拠らないで、優にその3倍を超える高額の支払いを規定したことにおいては、それなりの根拠があるものと思料される(合理的な根拠なく高額の報償費が規定されたというのであれば、本件委託契約の正当性が揺らぐといわざるをえない)。その根拠を明らかにされたい。

以上

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