沖縄県政の刷新を求める会

万国津梁会議設置支援業務委託料返還訴訟

判決文判決文

判決文

判決文

令和4年2月16日


主文
  1. 原告らの請求をいずれも棄却する。

  2. 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1 請求
  1. 被告は、玉城康裕に対し、2166万円を沖縄県に支払うよう請求せよ。

  2. 被告は、万国津梁会議設置等支援業務スタートチームに対し、2166万円を沖縄県に支払うよう請求せよ。

第2 事案の概要
  1.  本件は、沖縄県(以下、単に「県」ということがある。)の住民である原告らが、県と万国津梁会議設置等支援業務スタートチーム(以下「スタートチーム」という。)との間で締結された令和元年度万国津梁会議設置等支援業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)は、外部委託の必要性がなく、また、随意契約によることが許されないのに随意契約の方法で契約されている等の理由で違法又は無効であり、かかる違法又は無効な業務委託契約を締結して業務委託料2166万円を支出した県知事である被告には職務上の義務違反があり、これにより県に業務委託料相当額の損害が発生したなどと主張して、被告に対し、個人である玉城康裕に対する同額の支払請求の義務付けを求めるとともに、違法又は無効な本件業務委託契約に基づき業務委託料2166万円を受領したスタートチームは、県に対し、不当利得返還義務又は不法行為・債務不履行に基づく損害賠償義務として同額の支払義務を負うと主張して、被告に対し、スタートチームに対する同額の支払請求の義務付けを求める事案である。

  2. 前提となる事実(争いのない事実及び後掲証拠により容易に認められる事実)
    • (1) 当事者
      •  ア 原告らはいずれも沖縄県に住所を有する者(沖縄県民)である。
      •  イ 被告は、地方自治法1条の3第2項所定の普通地方公共団体である沖縄県の知事である。
      •  ウ 玉城康裕(以下「玉城知事」という。)は、平成30年9月30日開票の沖縄県知事選挙で当選し、同年10月4日から県知事を務めている。
      •  エ 万国津梁会議設置等支援業務スタートチーム(スタートチーム)は、一般社団法人子ども被災者支援基金(以下「子ども基金」という。)のほか公益財団法人みらいファンド沖縄、沖縄ツーリスト株式会社及び株式会社WUBpediaで構成されるコンソーシアムであり、子ども基金が代表者となっている。なお、子ども基金は山形県寒河江市に本店を有しており、他の3社はいずれも沖縄県内に本店を有している。
    • (2) 万国津梁会議
       県は、目指すべき沖縄の将来像を実現し、新時代の沖縄を構築すること等を目的として、①「人権・平和」、②「情報・ネットワーク・行政」、③「人財育成・教育・福祉・女性」、④「経済・財政」、⑤「自然・文化・スポーツ」の5つの分野について有識者等から意見を聴取するものとして万国津梁会議を設置し、その設置等支援に係る業務は沖縄県文化観光スポーツ部交流推進課(以下「交流推進課」という。)が行っていた。

    • (3) 本件業務委託契約締結の経緯等
       県は、交流推進課が行っていた設置等支援に係る業務のうち、会議等の運営支援、担当者の配置、資料収集・資料作成、会議の報告等の取りまとめ、会議のあり方等、成果物(報告書等)の作成、その他県が指示する事項について第三者に業務委託することを決めた。県は当該業務の受注者を選定するに当たり、平成31年4月8日付け予算執行伺い(以下「本件予算執行伺い」という。)において契約方法を地方自治法234条2項及び同施行令167条の2第1項2号の規定に基づく随意契約の方法によるものとした上で、随意契約の相手方は公募を行いプロポーザル方式により選定することとし、同月12日に県のホームページにおいて委託業務の企画提案仕様書を示して公募を行った。県は、同月17日に説明会を開催したところ、説明会への出席者は6者(社)であった。その後、同年5月10日にスタートチームから企画提案応募申請がされ、県において委託候補事業者の選定(第1次審査)を同月14日に行ったところ、要件を満たすものとして、同月15日にスタートチームに対してその旨の通知をした。同月17日に委託候補事業者の第2次審査が行われた結果、スタートチームは基準点を満たすものとして、業務委託先と決定された。
       県は、同月24日、スタートチームとの間で、万国津梁会議設置等支援業務を委託することを内容とする別紙1記載の「令和元年度万国津梁会議設置等支援業務委託契約」(本件業務委託契約)を締結した。
       スタートチームは、本件業務委託契約の締結後、同契約に基づき配置すべき担当者として、子ども基金の県事務所長徳森りまを派遣した。(甲2、乙1、2、6、弁論の全趣旨)

    • (4) 本件業務委託契約の内容等
       本件業務委託契約の契約書(以下「本件業務委託契約書」という。)の条項のうち本件に関連する条項は別紙2のとおりであり、本件業務委託契約の仕様書のうち本件に関連する記載は別紙3のとおりである。(甲4)

    • (5) スタートチームに対する業務委託料の支払
       県は、本件業務委託契約書16条1項所定の概算払として、スタートチームに対し、業務委託料として、令和元年6月10日に業務委託料(2407万7000円)の10分の3に相当する722万円を支出し(以下「本件支出」」という。)、同年8月6日に同じく722万円を支出し(以下「本件支出2)という。)、同年9月4日に同じく722万円を支出した(以下「本件支出3」という。)。本件支出1~3については、支出負担行為書(乙2)に表示された支出計画に基づくものであるところ、当該支出計画によれば、本件支出1は令和元年5月に、本件支出2は同年6月30日に、本件支出3は同年7月31日に、最後の支出は令和2年3月31日に行う予定とされている。(乙2~5)

    • (6) 概算払の精算
       スタートチームは、令和2年3月31日、本件業務委託契約書13条に基づき、受託業務に係る業務完了報告書(以下「本件業務完了報告書」という。)を県に提出した。これを受け、県は、同日、本件業務委託契約書14条4項に基づき、スタートチームに対する業務委託料を2015万0961円と確定した。
       スタートチームは、同年5月20日、概算払として受領済みの2166万円と上記確定額の差額である150万9039円を県に返納した。(乙8、9、10の1・2)

    • (7) 住民監査請求
       原告らは、令和元年12月23日、県監査委員に対し、県知事において、本件業務委託契約を解除すること、本件業務委託契約が違法・不当であることを理由にスタートチームに対して支払われた全額2166万円を返還すること、また、「委託事業の進捗度合に応じて」するべき支払がされなかったことを理由に本件支出2、3に係る1444万円を返還することを求めるよう勧告を行うごとを求めて、県職員措置請求を行い、令和2年1月10日、これが受理された。
       3名の監査委員のうち2名は、本件支出2、3の支出(合計1444万円)については、本件業務委託契約書16条1項2号、2項により「委託事業の進捗度合いに応じて」支払う必要があるところ、スタートチームが 本件支出2、3に係る請求をするに当たり、業務の進捗度合を示す書類を添付しておらず、県にこおいてどのように進捗度合を客観的に確認し、概算払の上限である9割に相当する支出を行うことが適当と判断したかが明らかではないとの理由で、本件支出2、3を不当とした。他方、残る1名の監査委員は、本件業務委託契約が請負契約ではなく準委任契約に該当するものであり、準委任契約においては、契約時に債務金額が確定しておらず、額の確定時に精算を行うことが予定されていることから、必ずしも出来高に応じた概算払を行うことが求められるものではないとの理由で、本件支出2、3を適正なものであったとし、結局、3名の監査委員の意見の一致が得られなかったことから、合議不調となった。(甲2)

  3. 争点及び当事者の主張
    • (1) 本件業務委託契約の違法性
       (原告らの主張)
       本件業務委託契約は、以下の理由により、重大な違法があり無効である。
      •  ア 本件業務委託契約はそもそもこれを担当する交流推進課において行う業務そのものであって、外部に業務委託する必要性はなかった。
      •  イ 県は、本件業務委託契約の受託者の選考過程において、県において何ら実績がない山形県の子ども基金を代表者とするスタートチームを受託者として選任しているが、子ども基金は参加資格要件を満たしていなかった。
      •  ウ 本件業務委託契約は随意契約の方法により締結されたものであるところ、本件業務委託契約は地方自治法施行令167条の2第1項所定の随意契約の方法によることが許される場合の列挙事由のいずれにも該当せず、違法である。また、本件業務委託契約は、同項2号所定の随意契約としてプロポーザル方式により公募されたが、複数の業者による企画提案の比較検討はされていない。
      •  エ 「会合」に係る委員の報酬額については、謝礼金(報償額)支払基準があり、「会合」すなわち「有識者等の意見を聴取し、当該意見を県の行政上の意思決定に参考とすることを主たる目的として、要綱等に基づき開催される連絡会、懇談会その他の会合」の構成員に対する謝礼金(報償費)は日額8400円とすることが「審議会の構成員に対する謝礼金支払基準について(通知)」に規定され、平成18年4月1日から適用されている。それにもかかわらず、県が作成した「企画提案仕様書」には「会議委員への報償費」として日額2万7000円とする旨の記載があり、この仕様書に基づいて応募したスタートチームとの契約において、委員の報酬を日額2万7000円とすることは、上記委員報償費の規定を無視するものである。

       (被告らの主張)
      •  ア 本件業務委託契約に係る業務について、業務委託の必要性はなかったことは否認する。県では、各種事業などの外部委託について、「高度又は専門的な知識・技能を必要とし、県で直接実施することが困難な場合」又は「外部に委託することにより。事業の効率化やコスト縮減が図られる等合理的理由がある場合」のいずれかに該当する場合にこれが認められている。本件業務委託契約に係る業務は、幅広いテーマに対応できる高い能力を有する担当者の配置が求められるなど、一定の専門的な知識を必要とすることに加え、万国津梁会議で取り上げる予定のテーマは、交流推進課の所管でないものも含まれており、これを交流推進課で行うことは人的・物的に困難であるから、これらのテーマについてすべて一括して外部に業務委託することで事業の効率化を図ったものである。したがって、本件業務委託契約に係る業務は、一定の専門的な知識を必要とし、これを「外部に委託することにより、事業の効率化やコスト縮減が図られる等合理的理由がある場合」に該当する。
      •  イ 本件業務委託契約に係る平成31年度万国津梁会議支援業務企画提案応募要領(以下「支援業務企画提案応募要領」という。)の参加資格にある「類似の会議運営等事業の受託実績があり、想定する委託期間内において別添仕様書に基づく業務内容を遂行する能力を有すること」という要件は、コンソーシアムの構成員の全員が満たす必要はない。県は、スタートチームの構成員である公益財団法人みらいファンド沖縄が「類似の会議運営等事業の受託実績」があることから、スタートチームとして上記要件を満たすと判断した。
      •  ウ 本件業務委託契約は、地方自治法施行令167条の2第1項2号所定の「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当するから、随意契約の方法によることは違法ではない。県においては、同施行令に規定する随意契約の運用指針として沖縄県随意契約ガイドライン」(以下「随意契約ガイドライン」という。)を定めているところ、随意契約ガイドラインでは、①契約目的を達成するため、主に価格以外の条件を重視する必要がある場合に、②公募又は指名により業務内容等に係る企画を提案させ、③提案者の中から契約目的に最も適した者と契約する場合には、随意契約によることができるとされている。本件業務委託契約に係る業務の目的は、知事が示す県政の課題等のテーマについて有識者等から意見を聞くため「万国津梁会議」を設置し、同会議の設置等の支援を行うことにあるところ、当該業務の実施に際しては、県内外・海外で活躍する見識の高い有識者等の外国語対応を含む連絡調整や日程等の調整、幅広いテーマにおける海外の先進事例等の情報収集や会議に係る資料作成等を行うと、ともに、幅広いテーマに対応できる高い能力を有する担当者を複数配置することが求められる。このような会議を効率・効果的に運営して事業目的を達成するためには、単に価格だけではなく、効果的な会議運営の手法についての理解の有無や業務を遂行できる能力・体制の有無等、価格以外の条件を重視する必要がある。
         県は、平成31年4月12日から同年5月10日までの約1か月間という適切な公募期間をもうけて広く公募を実施し、同年4月17日の業者説明会には6者が参加していたものであり、結果的には、スタートチーム1者のみが応募したものの、県は、支援業務企画提案応募要領で示された審査を実施して、評価基準に基づいて総合的な評価を行い、その結果、スタートチームを委託先候補者に選定した。本件業務委託契約は、随意契約ガイドラインに沿った形で随意契約の方法で締結されているから違法ではない。
      •  エ 県が万国津梁会議で招へいした委員は県内外で活躍する見識の高い有識者であり、当該委員の職務として、先進事例等の情報収集、調査研究、研究成果の発表及び提言の取りまとめのほか、万国津梁会議での発言だけではなく、調査研究内容の発表等も含まれている。県は、このような委員の職務内容を考慮して、知事が命ずる事項について調査研究し、知事に進言することを職務とする県政策参与の報酬日額2万7000円と同額に報酬を設定したものであり、不相当に高額であるとはいえない。原告が指摘する謝礼金支払基準は、県から会合の構成員等に対して直接謝礼金を支払う場合の基準であり、本件のように受託業者に対して業務委託費として支払う場合には適用されない。

    • (2) スタートチームによる概算払請求の違法性の有無
       (原告らの主張)
      •  ア 本件業務委託契約書によれば、スタートチームは委託業務が完了すれば、その旨を県に通知する義務があり(14条1項)、業務完了の確認のための検査を行った後に支払うべき委託料の額が確定し(同条4項)、受託者は同条4項の通知を受けた際、業務委託料の支払を請求することができるとされており(15条1項)、これが委託業務料の確定と支払に関する原則とされている。本件で採用された概算払の方法はその例外であって、「10分の3に相当する額」の概算払であればともかく、「10分の9に相当する額」の概算払については、事業の進捗度合に応じて支払うことが明記されている以上、事業の進捗度合を無視して1 0分の9に相当する額の概算払を請求することは違法である。また、県が事業の進捗度合の確認もせずに概算払の請求に応じて支払をすることも違法である。
      •  イ 本件業務委託契約書によれば、スタートチームは仕様書に定めるところにより、契約の履行について県に報告する義務があり(6条)、仕様書又は業務に関する指示を変更するときは、変更内容を予め通知することが求められ(7条)、委託費の経費区分ごとに配分された額を変更しようとするとき、又は、委託事業の内容を変更しようとするときは、予め業務実施計画変更申請書を県に提出し、その承認を得る必要がある(8条)。しかし、スタートチームは、①概算払後に問題が表面化するまで本件業務委託契約書6条所定の履行報告をしておらず、②5つの分野の会議を3つの分野に絞り、かつ全部で10回行うはずの会議を5回にとどめ、また、本件業務委託契約に基づく委託事業の内容を変更したことについて、予め県の承認を得ていないなど、本件業務委託契約の債務不履行は明らかであった。それにもかかわらず、県は、その確認ないし査定を怠り、スタートチームの請求どおりに概算払に応じた違法がある。

       (被告らの主張)
      •  ア 本件支出2、3は本件業務委託契約書16条1項所定の「概算払」として行われたものであり、もともと事後の精算が予定されていたものであるから、本件支出2、3の違法性は現時点では問題とならない。すなわち、住民訴訟では損害は現実に発生したことが立証される必要があるところ、県は、本件業務委託契約書13条に基づき、スタートチームから本件業務完了報告書等の提出を受け、14条2項に基づく検査を行い、支払うべき委託料を2015万0961円と確定してスタートチームに通知した上、スタートチームから本件支出1~3との差額分150万9039円の返金を受けているから、県に損害はない。
      •  イ 概算払とは、地方自治法232条の5第2項に定める普通地方公共団体の支出方法の一つであり、その支払うべき債務金額の確定前に概算をもって支出するものと解されている。概算払ができる経費については、地方自治法施行令162条6号により 「経費の性質上概算をもって支払をしなければ事務の取扱いに支障を及ぼすような経緯で普通地方公共団体の規則で定めるもの」とされ、これを受け、沖縄県財務規則65条7号において「委託費」が掲げられている。
         県では、概算払等の取扱いを定めた内部通達において「契約等に係る概算払等は、契約金額の全額を履行後に支払うことを約定する場合を除くほか、契約に基づく支払計画書により行うものとする。」と定めているところ、本件では、県財務規則65条7号所定の「委託費」について、支出負担行為書に表示された支払計画に基づいて本件支出2、3が行われており、概算払としてよるべき財務会計法規に従って適切に行われている。
      •  ウ 県職員は、本件業務委託契約に定める委託事業の進捗度合について、県職員が各支払時までに実施していた全会議に出席し、各会議の進捗等を確認している。すなわち、本件支出1については、支払時までに、受託業者による旅費支払など、実施予定の会議の準備、会議開催後の対応、交流推進課及び関係各課並びに各委員との事務調整の状況、第1回米軍基地問題に関する万国津梁会議が円滑に実施・運営されたことを確認した。本件支出2については、上記に加え、第1[回児童虐待に関する万国津梁会議及び第1回SDGsに関する万国津梁会議が円滑に実施・運営されたことを確認した。本件支出3については、上記に加え、第2回米軍基地問題に関する万国津梁会議が円滑に実施・運営されたことを確認したから、概算払をしたことに違法性はない。
      •  エ 沖縄県は、仕様書記載の5つの分野のうち2分野(④経済・財政、⑤自然・文化・スポーツ)について、令和元年度は3つの分野(①「人権・平和」、②「情報・ネットワーク・行政」、③「人財育成・教育・福祉・女性」)に絞ることとしたため、2分野について会議が立ち上がっていないのであり、スタートチームの債務不履行ではない。
         本件業務委託契約に係る受託業務の成果についても、最終的に、米軍基地問題に関する万国津梁会議が4回、児童虐待に関する万国津梁会議が2回、SDGsに関する万国津梁会議が3回、さらに当初予定されていなかったSDGs普及推進のための県民円卓会議1回の合計10回の会議が開催され、いずれも円滑に実施・運営がされている。また、実施した3分野の全ての会議から知事に提言がされ、報告書に取りまとめられており、スタートチームに債務不履行はない。

    • (3) 被告による査定の違法性
       (原告らの主張)
      •  ア 県は、スタートチームから提出された積算表(以下「本件積算表」という。)に基づく金額をそのまま適正なものとして認めている上、本件積算表では統括責任者の人件費が394万5920円となっており、当初の見積金額である159万9800円を大幅に超えていること、事務局旅費(158万5142円)、事務局滞在費(20万1979円)が適正とされている根拠も不明であることから、県によるスタートチームに対する業務委託料の査定が適正とはいえない。
      •  イ 別紙4はスタートチームの人件費として支出されたものの一覧であるところ。県は、スタートチームから提出された業務日誌、領収証等を確認することなく、人件費、旅費滞在費等を不当に支出している。
         すなわち、統括責任者の人件費については、算定根拠となる業務時間が飛行機搭乗時間と重複しており。実際に業務をしていない時間が従事時間数として計上されているから、少なくとも従事時間数から21時間30分に相当する人件費である8万1700円(21.5×3800円)が不当に支出されているほか、統括責任者は令和元年6月21日に東京に戻り、その航空券代が旅費として計上されているのに、同日の宿泊代が計上されている。また、令和2年2月19日には統括責任者の業務が存在しないのに、代官山からみなとみらい間の往復交通費940円が不当に支出されている。
         また、事務局スタッフ①の人件費については、令和元年5月29日における業務時間が8時間計上されているものの、飛行機による移動時間(4時間)が不当に従事時間として計上されており、また、同月30日における業務時間が8時間計上されているものの、飛行機による移動時間(4時間30分)が同じく不当に従事時間として計上されているから、3万2300円(8.5×3800円)の不当支出がある。事務局スタッフ②の人件費についても、令和元年11月7日における業務時間が8時間計上されているものの、飛行機による移動時間(5時間)が不当に従事時間として計上されているから、少なくとも1万9000円(5×3800円)が不当に支出されている。

       (被告らの主張)
      •  ア 県は、スタートチームの提出した本件積算表による業務委託料をスタートチームの業務日誌等に基づき査定した上で、スタートチームに対する業務委託料を確定させている。
      •  イ 本件のような委託事業については、出張等における移動時間についても当該委託事業のために従事した時間として計上することができるから、移動時間を人件費に計上することが違法とはいえない。原告らが指摘する令和元年6月21日の統括責任者の宿泊代については、そもそも同月18日~同月20日の3泊分しか支出されておらず、同月21日の宿泊代は支払われていない。令和2年2月19日の統括責任者の往復交通費も、横浜で開催された「サステナブル・ブランド国際会議2020横浜」に参加するための交通費である。

    • (4) 被告の県に対する責任の成否
       (原告らの主張)
      •  ア 玉城知事は、本件業務委託契約が違法又は無効であるにもかかわらず、これを敢えて締結しているから、知事としての職務違反がある。
      •  イ 玉城知事は、本件業務委託契約における計画変更の承認等に関する規定をスタートチームに遵守させ、スタートチームがそれを果たされなければ、スタートチームの概算払の請求に応じてはならない旨、職員を指揮監督する義務を負うのにこれを怠り、その結果、職員がスタートチームの概算払請求に応じて本件支出1~3をしたから、知事としての職務違反がある。
      •  ウ 玉城知事は、本件業務委託契約に基づき業務の進捗度合について適切な調査等をした上で本件支出1~3をするよう、県職員を指揮監督する義務を負うのにこれを怠り、その結果、県職員かスタートチームによる委託業務の進捗度合を何ら確認せず、また進捗度合に関する報告書等を提出させないまま、職員がスタートチームの概算払請求に応じて本件支出1~3をしたのであるから、知事としての職務違反がある。

       (被告らの主張)
       原告らの主張はいずれも否認する。

    • (5) 県の損害の発生及びその数額
       (原告らの主張)
      •  ア 玉城知事は、職務上の義務に違反して、無効である本件業務委託契約を締結し。県職員に本件支出1~3をさせたところ、これにより、県は2166万円の損害を被った。
      •  イ 仮に本件業務委託契約が無効でないとしても、玉城知事は、職務上の義務に違反して県職員に本件支出2、3を違法に行わせたものであり、これにより、県は1444万円の損害を被った。

       (被告らの主張)
       原告らの主張はいずれも否認する。

    • (6) スタートチームによる損害賠償義務等の有無(請求の趣旨2項関係)
       (原告らの主張)
      •  ア 本件業務委託契約は重大な違法があり無効であるから、スタートチームは、法律上の原因なく、県から業務委託料相当額の2166万円を受領して、県の損失のもとに同額を利得した。したがって、スタートチームは、県に対し、2166万円の不当利得返還義務を負う。
      •  イ スタートチームは、本件業務委託契約が重大な違法があり無効であることを認識しながら、県から業務委託料相当額の2166万円を受領したから、県に対し、不法行為に基づき、2166万円の損害賠償義務を負う。
      •  ウ スタートチームは、令和元年9月4日の時点において、本件業務委託契約の履行対象となる5分野のうち、3分野(①「人権・平和」、②「情報・ネットワーク・行政」、③「人財育成・教育・福祉・女性」)については、SDGS普及推進のための県民円卓会議(令和元年9月28日13時~15時40分)の主催など一部しか実施せず、残りの2分野(④「経済・財政」、⑤「自然・文化・スポーツ」)については全くの手つかずの状態であった。それにもかかわらず。県に対し業務委託料の約9割に当たる2166万円を請求し、県からその支払を受けた。その結果、県は本件支出2、3に係る合計1444万円の損害を被ったから、スタートチームは、県に対し、債務不履行に基づき、1444万円の損害賠償義務を負う。

       (被告らの主張)
       本件業務委託契約は違法・無効ではなく。また、スタートチームは本件業務委託契約に係る債務を履行しているから債務不履行もない。

第3 当裁判所の判断
  1. 争点(1)について
    • (1) 原告らは、本件業務委託契約は交流推進課の業務そのものであって、業務委託の必要性はなかったと主張する。
       しかし、沖縄県総務部財政課作成の平成31年度当初予算見積基準表(乙15)によれば、県では、「高度又は専門的な知識・技能を必要とし、県で直接実施することが困難な場合」又はΓ外部に委託することにより、事業の効率化やコスト縮減が図られる等合理的理由がある場合」には県の各種事業・調査事務を外部委託することが認められている。そして、本件予算執行伺い(乙1)によれば、本件業務委託契約に係る委託業務は、沖縄21世紀ビジョン基本理念及び5つの将来像を実現し、新時代沖縄を構築するために、更なる政策の推進が必要であることから、知事が示す県政の課題等のテーマについて有識者等から意見を聴くため「万国津梁会議」を設置し、同会議の設置等支援業務を行うものであること、当該業務の実施に際しては、県内外・海外で活躍する見識の高い有識者等との外国語対応を含む連絡調整や日程等の調整、幅広いテーマにおける海外の先進事例等の情報収集や会議に係る資料作成等を行うとともに、幅広いテーマに対応する高い能力を有する担当者を複数配置することが求められるものであることが認められる。そうすると、本件業務委託契約に係る業務はー定の専門的知識が必要であり、また、相当程度の業務量であることが推認される(これは本件予算執行伺いにおいて、本件業務委託に対して2400万円を超える予算が設定されたことからも裏付けられる。)から、これを交流推進課の人員のみで行うことは人的・物的に相当の困難が伴うものと推認され、また、本件業務委託契約に係る業務を一括して外部委託することにより、当該事業の効率化を図ることが可能と考えられることから、県において、本件業務委託契約に係る業務について「外部に委託することにより、事業の効率化やコスト縮減が図られる等合理的理由がある場合」に当たると判断したことに不合理な点は見当たらない。したがって、県が本件業務委託契約に係る業務を外部委託とすることが違法であるとはいえない。

    • (2) 原告らは、スタートチームの代表者である子ども基金は沖縄県において何ら実績がないから、参加資格要件を満たしていないと主張する。
       この点、本件予算執行伺い添付の支援業務企画提案応募要領が規定する参加資格要件は別紙5の7「参加資格」欄に記載のとおりであるところ(乙1)、スタートチームはコンソーシアムとして応募していることから、その参加資格もコンソーシアムを単位として審査されることとなる。そして、前提事実(31及び証拠(乙2)によれば、県は第1次審査、第2次審査において、スタートチームが支援業務企画提案応募要領所定の参加資格を有するとの判断の上で、スタートチームを本件業務委託契約の受託者に選定したことが認められ(乙2)、ほかにスタートチームに参加資格要件を欠くことをうかがわせる証拠はない。
       原告らは、子ども基金自体の参加資格要件を問題とするが、子ども基金が本件業務委託契約の受託者として応募しているわけではないから、子ども基金自体の参加資格は問題とはならない。仮に原告らの主張が、子ども基金に参加資格要件のうち「(3)類似の調査事業の受託実績があり、想定する委託期間内において別添仕様書に基づく業務内容を遂行する能力を有すること」という要件を欠くという趣旨であるとしても、別紙5の参加資格欄の記載によれば、当該要件はコンソーシアムの場合には構成員の全てが満たす必要はないものとされているから、子ども基金が当該要件を満たさないとしても、スタートチームの参加資格が否定されるわけではない。そして、証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば、県は、スタートチームの構成員の一つである公益財団法人みらいファンド沖縄が、上記要件を満たすものと判断したことが認められ、当該判断に特段不合理な点は見当たらない。

    • (3) 原告らは、本件業務委託契約が、随意契約の方法によることが許容される地方自治法施行令167条の2第1項所定列挙事由のいずれにも該当しないなどと主張する。
       この点、一般競争入札の原則の例外として、地方自治法234条2項、同施行令167条の2第1項2号は「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないもの」について、随意契約によることを許容しており、随意契約ガイドライン(乙14)は、同号に基づき「企画競争型随意契約(コンペ・プロポーザル等)」によることができる場合として、①契約目的を達成するため、主に価格以外の条件を重視する必要がある場合に、②公募又は指名により業務内容等に係る企画を提案させ、③提案者の中から契約目的に最も適した者と契約する場合を挙げるところ、上記各要件を満たす場合に随意契約によることができるとすることが、地方自治法234条2項、同施行令167条の2第1項2号の趣旨に反するものとは解されない。そして、本件予算執行伺い(乙1)によれば、本件業務委託契約の目的は、県知事が示す県政の課題等のテーマについて有識者等から意見を聴くため「万国津梁会議」を設置し、同会議の設置等の支援を行うことにあり、当該業務の実施に際しては、県内外・海外で活躍する見識の高い有識者等の外国語対応を含む連絡調整や日程等の調整、幅広いテーマにおける海外の先進事例等の情報収集や会議に係る資料作成等を行うとともに、幅広いテーマに対応できる高い能力を有する担当者を複数配置することが求められるものとされている。そうすると、本件業務委託契約については、①万国津梁会議を効串・効果的に運営して事業目的を達成するため、効果的な会議運営の手法についての理解の有無や業務を遂行できる能力・体制の有無等、価格以外の条件を重視する必要があるといえる。また、前提事実(3)及び証拠(乙2)によれば、②県は、平成31年4月12日から同年5月10日までの約1か月間の公募期間をもうけて公募を実施したこと、③県は、公募に応じたスタートチームについて、支援業務企画提案応募要領で示された審査を実施し、評価基準に基づく評価を行った結果、スタートチームを委託先候補者に選定したことが認められる。

       以上によれば、本件業務委託契約については、地方自治法234条2項、同施行令167条の2第1項2号所定の要件を満たすものと認められるから、県が本件業務委託契約の受託者を随意契約の方法により選定したことが違法であるとはいえない。
       原告らは、本件業務委託契約については、同号の規定による随意契約としてプロポーザル方式により公募されたものの、複数の業者による企画提案の比較検討はされなかったなどとも主張する。しかし、前記のとおり、県は本件業務委託契約について、公募により応募者を募っている以上、その結果、応募者が1者のみであった場合に随意契約によることが当然にできなくなるものと解するべき格別の根拠は見当たらないし、県は応募してきたスタートチームについて、第。1次審査、第2次審査を経てその資格、能力等を考慮した上で、本件業務委託契約の受託者に選定したと認められるのであるから、複数の業者による企画提案の比較検討がされなかったことをもって、本件業務委託を随意契約により締結したことが違法であるとはいえない。

    • (4) 原告らは、「会合」に係る委員の報酬額については、謝礼金(報償額)支払基準等により日額8400円とすると規定されているにもかかわらず、県が作成した「企画提案仕様書」には「会議委員への報償費」 として日額2万7000円とする旨の記載があり、この仕様書に基づいて応募したスタートチームとの契約において日額2万7000円としたことが違法であると主張する。
       確かに沖縄県総務部長作成の「審議会等の構成員に対する謝礼金支払基準について(通知)」(甲8)には、「会合」の構成員に対する謝礼金は日額8400円とする旨の記載があり、他方、本件業務委託契約書の仕様書(乙2)には、会議委員への報償費は日額2万7000円とする旨の記載がある。 しかしながら、原告らが指摘する謝礼金支払基準は、その記載上、沖縄県が直接「会合」の構成員に対して「報償費」を支払う場合が念頭に置かれていることがうかがわれるところ、本件業務委託契約では、県が委託業者に対して業務委託料を支払い、受託業者が業務委託料の中から会議委員に対して謝礼金を支払うものとされており(乙I)、このような場合にまで上記謝礼金支払基準によることが想定されているとは認め難い。そして、万国津梁会議は「沖縄21世紀ビジョン基本理念及び5つの将来像を実現し、新時代沖縄を構築するために、更なる政策の推進が必要であることから、知事が示す県政の課題等のテーマについて有識者等から意見を聴くため」の会議であり、その会議委員は「県内外、海外で活躍する見識の高い有識者」が念頭に置かれていることを考慮すれば、会議委員の報酬を日額2万7000円としたこと(なお、証拠(乙12、25)及び弁論の全趣旨によれば、これは、知事が命ずる事項について調査研究し、知事に進言することを職務とする県政策参与の報酬日額2万7000円を参考としたものであることが認められる。)が違法とはいえない。

  2. 争点(2)について
    • (1) 「概算払」とはその支払うべき債務金額の確定前に概算をもって支出することをいい、その要件としては、債務関係が発生しているが履行期が未到来であること、債務金額が確定していないことが挙げられる。概算払は債務金額の確定前にされる支出であるから、その性質上事後において必ず精算を行い、過渡しについては返納を、不足については追加支払いをすることを本質とするものである(乙16参照)。
       地方自治法232条の5第2項、同施行令162条6号によれば、「経費の性質上概算をもって支払をしなければ事務の取扱いに支障を及ぼすような経費で普通地方公共団体の規則で定めるもの」については概算払が認められており、これを受けて県では、沖縄県財務規則65条7号において「委託費」について概算払を認めている(乙11)。また、県では、概算払等の取扱いについて内部通達(乙13)を定めているところ、これによれば、契約等に係る概算払等は、契約金額の全額を履行後に支払うことを約定する場合を除くほか、契約に基づく支払計画書により行うものとされている。
       本件業務委託契約は委託契約であることから、同契約に基づく業務委託料は、沖縄県財務規則65条7号所定の「委託費」に該当するものとして、概算払が認められる性質のものといえる。そして、本件業務委託契約書16条1項によれば、本件業務委託契約の受託者は、着手時に業務委託料の10分の3に相当する額を上限とする額を受領することができ、また、委託事業の進捗度合に応じて業務委託料の10分の9に相当する額を上限とする額を受領することができるとされているところ、前提事実間及び証拠(乙2~5)によれば、県は、上記条項に基づき、スタートチームに対し、業務委託料として、令和元年6月10日に業務委託料2407万7000円の10分の3に相当する722万円を支出し(本件支出1)、同年8月6日に同じく722万円を支出し(本件支出2)、同年9月4日に同じく722万円を支出していること(本件支出3)、本件支出1~3はいずれも支出負担行為書に表示された支出計画書(乙2の2頁)に基づき行われたものであることが認められる。そうすると、本件支出1~3はいずれも適法に行われたものと認めるのが相当である。

    • (2) 原告らは、本件業務委託契約上、業務委託料の支払は確定後払いが原則である(本件業務委託契約書14条1項、2項、4項、15条1項)にもかかわらず、本件では例外である概算払の方法が採用されている上、事業の進捗度合を無視して10分の9に相当する額の概算払を請求することは違法であると主張する。しかし、本件業務委託契約において概算払が法令上認められることは前記田で説示したとおりである。そして、概算払が債務金額の確定前にされる支出であるため、その性質上事後において必ず精算を行い、過渡しについては返納を、不足については追加支払いをすることが必要とされていること(本件でも、前提事実(6)のとおり、本件業務委託契約に係る業務の完了後に概算払の額と確定額の差額の精算が行われている。)、業務委託料の確定前にどの程度の概算払をすることが許容されるかについては法令上に格別の規定はなく、本件のように確定前に10分の9に相当する概算払をすることを禁止する規定も存在しないこと、本件業務委託契約に係る業務を遂行する上では必然的に経費(会議委員への報酬、スタートチームの人件費等)がかかり、その額を予め査定することも困難であることを考慮すれば、業務委託料の10分の9までの概算払を認めたことについて、財務会計上の違法性があるとは認め難い。
       原告らは、本件支出2、3が実際の事業の進捗度合を無視してされたものであるとも主張する。しかし、「事業の進捗度合」をどのように審査・判断するかは必ずしも明確かつ容易とは考えられないし、前記のとおり、本件支出1~3は支出負担行為書に表示された支出計画書に基づいて行われるものであり、県において、スタートチームによる事業の進捗度合を厳密に審査してその出来高に応じて概算払をすることが必然的に要請されるものとはいい難い。そして、スタートチームが提出した本件業務完了報告書(乙8)によれば、本件支出2がされた令和元年8月6日時点では、米軍基地問題に関する第1回万国津梁会議が開催され(同年5月30日開催)、児童虐待に関する第1回万国津梁会議が開催され(同年7月25日開催)、SDGsに関する第1回万国津梁会議が開催されていたこと(同年8月6日開催)が認められ、また、本件支出3がされた同年9月4日時点では、米軍基地問題に関する第2回万国津梁会議が開催されていたこと(同年8月8日開催)が認められるから、進捗度合を無視して本件支出2、3が行われたものともただちにはいえない。仮に原告らの主張するとおり進捗度合に応じた概算払がされなかったとしても、本件業務委託契約に係る業務の完了後に概算払の額と確定額の差額の精算が予定されており、かつ、前提事実測のとおりにこれが実際に行われたことも踏まえると、本件支出2、3について当不当の問題が生じ得ることは格別、違法と評価する余地はないのであって、これに反する原告らの主張は採用できない。

    • (3) 原告らは、本件業務委託契約上、スタートチームには仕様書に定めるところにより県に契約の履行状況の報告義務があり、委託事業の内容を変更しようとするときは、予め業務実施計画変更申請書を県に提出し、その承認を得る必要。があるにもかかわらず、スタートチームは、①概算払後に問題が表面化するまで本件業務委託契約書6条所定の履行報告をせず、②5つの分野の会議を3つの分野に絞り、かつ全部で10回行うはずの会議を5回にとどめるなど、委託事業の内容を変更したことについて、予め県の承認を得ていないなどの債務不履行があり、それにもかかわらず、県職員が漫然とスタートチームの請求どおりに概算払に応じた違法があると主張する。
       本件業務委託契約書6条は、受託者であるスタートチームには仕様書に定めるところにより契約の履行について発注者である県に報告する義務がある旨を規定するところ、仕様書には、報告義務の具体的内容として「成果物(報告書等)の作成 報告書には、会議の記録(議論概要等)や、その他県の指示する資料等を揃えるものとする。」、「成果物の納品時期 受託者は、履行期間末日までに成果物(上記5)を県に提出するものとする。なお、委員会等の議事録速報版(議論概要)等、別途、県が期日を定めて納品を求めた場合には、県の指示に従うものとする。」との定めのほか、受託者の報告義務について具体的な定めは見当たらない。また。本件業務委託契約書13条1項は「受注者は、発注者から事業の実施状況の報告書を求められたときは、依頼を受けた日から10日以内に発注者に提出するものとする。また、委託業務が完了したときは、業務完了報告書を作成し、履行期間末日までに仕様書に基づく成果物を添付して発注者に提出するものとする。」と規定するのみで、ほかに受注者の報告義務を具体的に定める規定も見当たらない。そうすると、スタートチームは、本件業務完了報告書を提出したことをもって、上記報告義務を履行したものと考えられる(なお、県がスタートチームに対し、業務委託契約期間途中において、事業の実施状況の報告等の納品を求めた形跡はない。)。これに反する原告らの上記①の主張は採用できない。
       また、本件業務完了報告書によれば、スタートチームは、本件業務委託契約の受託業務とされる5つの分野のうち3つの分野(①「人権・平和」、②「情報・ネットワーク・行政」、③「人財育成・教育・福祉・女性」)について万国津梁会議の支援業務を行ったものの、他の2つの分野については万国津梁会議の支援業務を行っていないことが認められる。しかしながら、本件業務委託契約書7条によれば、発注者である県は、必要があるときは、仕様書又は業務に関する指示を変更することができるとされており(仕様書にも「5つの分野全ての会議が立ち上がるとは限らないことに留意」の記載がある。)、そのため、県は、本件業務委託契約締結後、令和元年度のテーマについては、5つの分野のうち2分野(④経済・財政、⑤自然・文化・スポーツ)を取り上げず、3つの分野(①「人権・平和」、②「情報・ネットワーク一行政」、③「人財育成・教育・福祉・女性」)に絞ることとしたことが認められる(弁論の全趣旨)。そして、本件業務完了報告書によれば、スタートチームは、最終的に、①米軍基地問題に関する万国津梁会議を、令和元年5月30日、同年8月8日、同年12月18日、令和2年3月26日の合計4回にわたり開催し、②児童虐待に関する万国津梁会議を、令和元年7月25日、同年10月10日の合計2回にわたり開催し、③SDGSに関する万国津梁会議を、同年8月6日、同年12月26日、令和2年3月18日の合計3回にわたり開催したほか、さらに④当初予定されていなかったSDGS普及推進のための県民円卓会議を令和元年9月28日に開催したことに加え、これらの会議に基づく提言が知事に対して行われ、その内容が報告書に取りまとめられたことが認められる。
       そうすると、スタートチームは、県の意向により絞られた分野について、当初の予定どおり合計10回の会議の支援業務等を行ったものといえるから、原告らの上記②の主張に係る債務不履行があるとも認められない。

  3. 争点(3)について
    • (1) 原告らは、県はスタートチームから提出された本件積算表に基づく金額をそのまま適正なものとして認めるなど、業務委託料の査定が適正であるとはいえないと主張する。しかし、証拠(甲7、乙8、9、17~24(枝番を含む。))によれば、県は、スタートチームから提出された業務日誌、支出整理簿及び証憑書類に基づき、スタートチームが提出した本件積算表(本件業務完了報告書添付のもの。)による業務委託料の内容を査定し、その適正さを確認した上で業務委託料を確定したことが認められるから、県による業務委託料の査定が不十分のまま業務委託料を確定させたものとは認められず、ほかに原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。
       原告らは、本件積算表では統括責任者の人件費が394万5920円となっており、当初の見積金額である159万9800円を大幅に超えているとも主張するが、本件積算表による人件費の総額は1116万8960円であるのに対し、当初の予算(本件予算執行伺い添付のもの)は1043万6900円であって、その差額は70万円強にすぎず、これをもって、人件費の査定が適正でなかったとまでは推認できない。原告らは、事務局旅費(158万5142円)、事務局滞在費(20万1979円)が適正とされている根拠も不明であるとも主張するが、これらの費用が証憑書類に基づき査定されていることは上記のとおりである。

    • (2) 原告らは、県がスタートチームから提出された証憑書類を確認することなく人件費、旅費滞在費等を不当に支出していると主張し、その例として、①統括責任者の飛行機搭乗時間に対する人件費、令和元年6月21日分の宿泊代、令和2年2月19日の往復交通費、②事務局スタッフ①、②の飛行機による移動時間を挙げる。
       しかし、経済産業省大臣官房会計課作成の委託事業事務処理マニュアル(乙26)には、委託事業に関する人件費に関連して「出張等における移動時間についても当該委託事業のために従事した時間として計上することができます。」との記載があることが認められるから、本件のような委託事業については、出張等における移動時間を当該委託事業のために従事した時間として計上して人件費を支出することは可能と解される。したがって、統括責任者、事務局スタッフ①、②の飛行機による移動時間を考慮して人件費を算定したことが違法であるとはいえない。
       原告らは令和元年6月21日の統括責任者の宿泊代の支出が違法であるとも主張するが、支出整理簿(乙20)の記載及び添付の証憑書類(乙20)によれば、同月18日~21日の宿泊代として支出された3万2900円は3泊分の宿泊代であって、同月21日分の宿泊代が含まれていないことがうかがわれるから、原告らの主張はその前提において失当である。
       原告らは、令和2年2月19日の統括責任者の往復交通費の支出が違法であるとも主張するところ、支出整理簿(乙19)の記載及び証拠(乙27)によれば、これは、統括責任者が横浜で開催された「サステナブル・ブランド国際会議2020横浜」に参加するための交通費であることが認められるから、当該支出が違法とは認められない。

  4. 争点(4)~(6)について
     前記1~3のとおり、本件業務委託契約が無効・違法であるとか、本件支出1~3が違法であるとはいえず、また、スタートチームに本件業務委託契約についての不法行為ないし債務不履行があるともいえない。
     なお、原告らは、県が子ども基金を代表者とするスタートチームとの間で本件業務委託契約を締結し、業務委託料を支払ったことは、玉城知事の県知事選に係る選挙活動に協力した徳森りま所長に対する論功行賞であり、お手盛りであったなどと主張し、同主張を裏付ける証拠として甲13号証ないし、甲20号証を提出する。しかし、県がスタートチームとの間で本件業務委託契約を締結した経緯は前提事実(3)のとおりであり、かつ、その委託費について適正に支払・清算されたことも前記認定・説示のとおりであるところ、玉城知事の徳森りま所長に対する論功行賞的な要素は見受けられないし、また、子ども基金がコンソーシアムの代表であることは県ないし玉城知事の関与するところではない。そして、原告らの提出する上記各証拠(とりわけ、本件業務委託契約の締結前日に玉城知事が徳森りま外数名と飲食したことを裏付ける甲14号証)によっても、本件業務委託契約の締結及び業務委託料の支払が、玉城知事の徳森りま所長に対する論功行賞ないしお手盛りであるとは推認できない。そうすると、原告らの上記主張をもっても、本件業務委託契約が無効・違法であり、本件支出1~3が違法であるとはいえず、また、スタートチームに不法行為ないし債務不履行があったとも認められない。
     したがって、争点(4)~(6)に関する原告らの主張はいずれも認められない。

  5. 結論
     以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり、判決する。

那覇地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官 山口和宏

裁判官 浅江貴光

裁判官 進藤 諭

別紙1 契約目録
  1. 契約締結日
    令和元年5月24日
  2. 契約当事者
    発注者 県
    受注者 万国津梁会議設置等支援業務スタートチーム
  3. 委託業務の名称
    令和元年度万国津梁会議設置等支援業務委託契約
  4. 委託業務内容
    万国津梁会議設置等支援業務に係る会議などの運営支援・担当者の配置、資料収集・資料作成、会議の報告等取りまとめ、会議の在り方等、成果物の作成、その他県が指示する事項
  5. 業務委託料
      2407万7000円

以 上

別紙2 本件業務委託契約書の主な規定
  • 6条 受注者は、仕様書に定めるところにより、契約の履行について発注者に報告しなければならない。
  • 7条 発注者は、必要があると認めるときは、仕様書又は業務に関する指示(以下「仕様書等」という。)の変更内容を受注者に通知し、仕様書等を変更することができる。(以下略)
  • 8条1項 受注者は、次の各号のいずれかに該当するときは、あらかじめ業務実施計画変更申請書を発注者に提出し、その承認を受けなければならない。
    • (1) 委託費の経費区分ごとに配分された額を変更しようとするとき。ただし、各配分額の10分の2以内の流用増減であって、あらかじめ発注者に報告したものを除く。
    • (2) 委託事業の内容を変更しようとするとき。
  • 13条1項 受注者は、発注者から事業の実施状況の報告書を求められたときは、依頼を受けた日から10日以内に発注者に提出するものとする。また、委託業務が完了したときは、業務完了報告書を作成し、履行期間末日までに仕様書に基づく成果物を添付して発`注者に提出するものとする。
  • 14条1項 受注者は、委託業務が完了したときは、その旨を発注者に通知しなければならない。

    2項 発注者又は発注者が検査を行う者として定めた職員(以下「検査職員」という。)は、前条の業務完了報告書の提出を受けたときは、速やかに検査を行う。発注者又は検査職員は、受注者の立会いの上、仕様書に定めるところにより、当該書類の審査及び必要に応じて現地調査を行い、業務の完了を確認するための検査を行う。

    3項 (略)

    4項 発注者は、第2項の検査により、受注者の業務が本契約に適合するものであると認められる場合は、仕様書、業務実施計画書等及び業務完了報告書に基づき、支払いすべき委託料の額を確定し、受注者に通知するものとする。

    5項 発注者は、前項の委託費の額の確定をした場合において、既にその額を超える委託料が支払われているときは、期限を定めてその返還を命ずるものとする。

    6項 第4項で確定した額をもって契約金額とする。

  • 15条1項 受注者は、前条第4項の通知を受けた際には、業務委託料の支払いを請求することができる。

    2項 発注者は、前項の規定による請求があったときは、請求を受けた日から30日以内に業務委託料を支払わなければならない。

  • 16条1項 受注者は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める額を上限として、業務委託料の概算払いを発注者に請求することができるものとする。
    •    (1)本契約締結後、委託業務着手時に業務委託料の10分の3に相当する額
    •    (2)委託事業の進捗度合いに応じて業務委託料の10分の9に相当する額

以 上

別紙3 仕様書
  1. 業務名
    令和元年度万国津梁会議設置等支援業務委託
  2. 契約期間
    契約締結の日から令和2年3月31日まで
  3. 業務目的
    沖縄21世紀ビジョンの基本理念及び5つの将来像を実現し、新時代沖縄を構築するために、更なる政策の推進が必要であり、有識者等から意見を聴くため「万国津梁会議」を開催し、効果的な議論等を促すための万国津梁会議設置等支援に係る業務を行う。
  4. 委託業務内容
    • (1) 会議等の運営支援
      • ① 会議の運営業務
        会場確保及び設営、資料整理。各委員の日程等連絡調整、会議進行(委員長が進行する部分を除く)及び補助、通訳手配等
      • ② 会議の内容に関する情報収集及び資料作成(外国語対応を含む)
      • ③ 議事録作成(概要版、詳細版)
      • ④ 委員への報償費(日額2万7000円)及び旅費の支払い
      • ⑤ 委員の旅行手配
      • ⑥ 会議に係るお茶等準備、運営資料作成・準備等
      • ⑦ 会議運営等に係る経費の支払い
      • ⑧ その他会議の運営等に必要なこと

      ※ 委員への報償費、旅費及び会議運営等の経費は全て委託料に含まれる。

      会議構成等

      会議:5名(県内2名、県外2名、海外1名)×5会議=25名

      会議の開催頻度:年2回×5会議=10回

      ※ なお、会議の開催頻度、委員数等については、予算の範囲内で調整の上変更する場合があることに留意すること

    • (2) 担当者の配置
      万国津梁会議は、①人権・平和、②情報・ネットワーク・行政、③経済・財政、④人財育成・教育・福祉・女性、⑤自然・文化・スポーツの分野から、複数の会議を設置する予定であり、複数の担当者を配置すること。
      ※ 5つの分野全ての会議が立ち上がるとは限らないことに留意
    • (3) 資料収集・資料作成、会議の報告等取りまとめ
    • (4) 会議のあり方等
    • (5) 成果物(報告書等)の作成
      報告書には、会議の記録(議論概要等)や、その他県の指示する資料等を揃えるものとする。
    • (6) その他の業務
  5. 成果物
    • (1) 報告書 100部
    • (2) 電子データ(CD-ROMで提出)
    • (3) その他県が必要と認める書類等
  6. 成果物の納品時期
    受託者は、履行期間末日までに成果物(上記5)を県に提出するものとする。なお、委員会等の議事録速報版(議論概要)等、別途、県が期日を定めて納品を求めた場合には、県の指示に従うものとする。

以 上

別紙4 積算表
別紙4
別紙5 平成31年度万国津梁会議設置等支援業務企画提案応募要領
  1. 委託事業名
    平成31年度万国津梁会議設置等支援業務
  2. 目的
    沖縄21世紀ビジョンの基本理念及び5つの将来像を実現L、新時代沖縄を構築するために、更なる政策の推進が必要であり、有識者等から意見を聴くため「万国津梁会議」を開催し、効果的な議論等を促すための万国津梁会議設置等支援に係る業務を行う。
  3. 契約期間
    契約の日から令和2年(2020年)3月31日まで。
  4. 提案額
    提案上限額は、24,077千円以内(消費税及び地方消費税相当額を含む)とする。
    ※当該提案額は、企画提案のために提示する金額であり、契約金額ではない。
  5. 委託契約
    原則として第一位入選者と委託契約するが、委託に関して必要な協議が合意に至らない場合は次順位以降の者を繰り上げて、協議のうえ契約するものとする。
  6. 委託業務内容
    別紙の平成31年度万国津梁会議設置等支援業務・企画提案仕様書のとおりとする。
  7. 参加資格
    この手続に参加できる者は、次に掲げる要件を全て満たすものであること。コンソーシアムの場合は、構成員のすべてが(5)から(9)に掲げる要件を満たすこと。
    • (1) 当該委託業務を円滑に遂行するために必要な経営基盤を有し、かつ資金等について十分な管理能力を有していること。
    • (2) 沖縄県内に本店又は支店・営業所を設置している法人。又は県内に本店を有する事業者が1社以上参加しているコンソーシアムであること。
    • (3) 類似の調査事業の受託実績があり、想定する委託期間内において別添仕様書に基づく業務内容を遂行する能力を有すること。
    • (4) 県内において業務進捗状況又は業務内容に関する打ち合わせに対して、迅速に対応できる体制を有していること。
    • (5) 旅行業法(昭和27年法律第239号)第3条に規定する登録を受けた者であること。
      ただし、共同企業体の場合は、構成員のうち同法に基づく旅行業務を行う者のみ当該登録を受けていればよいものとする。
    • (6) 地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第167条の、1第1項の規定を準用する(ただし、一般競争入札参加資格を欠く者を除く。)。
      (注):地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第167条の4第1項
      普通地方公共団体は、特別の理由がある場合を除くほか、一般競争入札に次の各号のいずれかに該当する者を参加させることができない。
      • 一 当該入札に係る契約を締結する能力を有しない者
      • 二 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
      • 三 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第三十二条第一項各号に掲げる者
    • (7) 所得税又は法人税、消費税及び県税を滞納していないこと。
    • (8) 沖縄県の業務委託及び物品調達等に係る競争入札への参加停止の処分を受けていないこと。
    • (9) 会社更生法(平成14年法律第154号)又は民事再生法(平成11年法律第225号)に基づき、更正手続開始又は民事再生手続開始の申立てがなされている者でないこと。
    • (10) 自己又は自社の役員等が以下の要件のいずれにも該当する者でないこと及び次の各号に掲げる者がその経営に実質的に関与していないこと。以下の要件については資格確認のため、沖縄県警察本部に照会する揚合がある。
      • ア 暴力団(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第2号に規定する暴力団をいう。以下同じ。)
      • イ 暴力団員(同法第2条第6号に規定する暴力団員をいう。以下同じ。)
      • ウ 暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
      • エ 自己、自社若しくは第三者の不正な利益を図る目的又は第三者に損害を与える目的をもって暴力団又は暴力団員を利用している者
      • オ 暴力団又は暴力団員に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなど、直接的若しくは積極的に暴力団の維持運営に協力し、又は関与している者
      • カ 暴力団又は暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有している者
      • キ 暴力団又は暴力団員であることを知りながらこれらを利用している者

以 上

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