沖縄県政の刷新を求める会

首里城焼失賠償金支払請求訴訟

監査請求監査請求

監査請求

沖縄県職員措置請求書

請求の要旨

 沖縄県は、首里城公園の管理運営を、指定管理者に選任した一般財団法人沖縄美ら島財団に委託していたが、令和元年10月31日の火災事故により、首里城公園の城郭内の正殿をはじめとする6棟の建物が焼失して莫大な損害を被ったことに対する賠償金の支払請求を怠っているところ、その事実が違法であることを確認し、速やかに是正せよ。

請求の理由

  1. 事案の概要
     本請求は、令和元年10月31日に出火し、首里城公園の城郭内にあった正殿等6棟の建築物群が全焼した火災事故につき、火災の拡大・延焼を阻止できずに正殿等の全焼を招いた責任は、設置管理者である沖縄県から指定管理者(地方自治法244条の2第3項)として首里城公園の管理を委託され、その保全に最善を尽くすべき注意義務(以下「最善注意義務」という。)を負っていた一般社団法人沖縄美ら島財団(以下「沖縄美ら島財団」という。)にあり、首里城の正殿等の全焼によって沖縄県が被った全損害について沖縄美ら島財団は最善注意義務違反に基づく損害賠償責任を負っているところ、沖縄県が被った優に1億円を超える損害賠償金の支払につき、沖縄県知事が沖縄美ら島財団に対する請求を怠っていることが違法であることの確認を求め、もって現状の不当な事態を是正せんとするものである。

  2. 首里城の焼失
     令和元年10月31日、首里城公園の城郭内の首里城の建築物(正殿、北殿、南殿等の6棟)が火災によって全焼する事故が発生した。
     当日、午前2時34分に人感センサーの防犯装置が発報し午前2時34分に人感センサーの防犯装置が発報し、その6分後に火災報知器が6分後に火災報知器が警報を発し警報を発したが、火災報知たが、火災報知の遅れによって、宿直の警備員及び監視員が宿直の警備員及び監視員が正殿に駆けつけた駆けつけたときには、建物内部には黒煙が立ち込め、すでに正殿内の消火栓を確保することも適わず、消火器や放水銃を用いた初期消火ができない状態になっていた。
     その後、しばらくして警備員からの電話連絡を受けた那覇市消防局が火災を知り、消防隊が出動したが、現場に駆けつけるのに想定外の時間を要しただけでなく、消火栓の探索に時間を要し、位置確認に手間取り、消火ホースの長距離の延伸に手間取っただけでなく、防火用貯水槽の水量不足によって消火活動が頓挫するなど、様々な不首尾が重なり十分な消火活動を行うことができないまま推移するなか、火災の拡大と延焼は続き、午後1時30分に消火が確認されるまで11時間を要した。その結果、首里城公園の城郭内にあった正殿など6棟の建物が全焼(焼失面積計約3,813平方メートル)し、奉神殿と女官居室の2棟の一部が焼失し、併せて建物内に保管されていた国ないし県指定の重要文化財等の貴重な宝物の多くが焼損し、もって沖縄県に多大な損害を発生させた。

  3. 首里城の所有及び管理について
     首里城公園の所有権は国にあり、もともと独立行政法人都市再生機構が管理主体となり、一般社団法人沖縄美ら島財団(以下「沖縄美ら島財団」という。)に管理を委託していたが、平成31年2月1日から、沖縄県が独立行政法人都市再生機構の地位を譲り受けて管理主体となった。
     沖縄県は地方自治法244条の2に定める指定管理者制度に則って「沖縄県国営沖縄記念公園内施設の設置及び管理に関する条例」を制定して沖縄美ら島財団を指定管理者に選定し、首里城公園の管理運営を委託した。これによって、沖縄美ら島財団は、首里城公園の入場料の収受に関する業務を担い、首里城公園の入場料(事業計画によれば事業計画によれば年間11億3500万円)全額をその収入とする一方で、首里城公園内の建物等の施設の維持及び修繕に関する業務を担うとされていた。

  4. 出火原因
     那覇市消防局がとりまとめた調査書によれば、放火や人為的な失火の可能性はないとされる一方、正殿の北東側で溶けて細切れになった配線などが見つかり、1階で通電していた延長コードと、その先の発光ダイオード証明器具で何らかの電気的異常があった可能性があるとされたが、発掘した物や建物全体の焼損が激しく、物的証拠や着火物を特定できなかったことから、出火原因は不明と結論づけられた。

  5. 火災拡大の原因
    • (1)首里城公園の城郭内の首里城の建物群の特徴
       正殿を中心とする首里城の建物群は、「建築物固有の特性」「立地・敷地特性、建築物の配置状況」から一旦出火すると火災が急速に広がり、消防活動にも困難を伴うといった特徴を有しており、火災に対して非常に脆弱であった。そのため、万一出火した場合、火災の拡大及び延焼をくい止めるには、出火の早期発見、初期消火の活動が特に重要であった。
    • (2)火災自動報知器等の設備の不十分
       ところが、その出火の早期発見・初期消火に必要な設備をみると、本来火災の発生を最も早く感知するはずの火災自動報知機が、防犯設備の赤外線方式の人感センサーよりも6分も遅れて発報しており、その結果、宿直の警備員ないし監視員ら(当時、警備員5名、監視員2名が宿直していた。)が火災に気づいたときには、すでに正殿内には黒煙が立ち込め、正殿内の屋内消火栓にたどりつくことさえ困難な状態だったとされ、現に備え付けの消火器や放水銃等を用いた初期の消火活動はほとんどなされなかった。
       調査報告書によれば、自動火災報知設備には、煙検知器と熱感知器があり、熱感知器には空気管式と熱電対式があるという。正殿には、熱感知器としては空気管式のものしか設置されておらず、より感度がいい熱電対式のものは設置されていなかった(最新最適の防火設備の設置は管理上の最善注意義務の内容であるというべきである)。また、出火の早期検知能力において熱感知器をしのぐとされる煙検知器が設置されていたものの正殿内に黒煙が立ち込める状態が確認されていながら、その作動は確認されなかった(この事実は防火設備の維持管理における最善注意義務違反の推定が働く)。
       また、初期消火に効果を発揮するスプリンクラーなどの自動消火設備が何ら設置されていなかったことが、短時間で火災が拡大した原因であると考えられる(スプリンクラーの設置は、正殿等の木造建築にかかる消防法上の義務ではないことが指摘されているが、これは、スプリンクラーによって護るべきは、その建物だけではなく、そこに所蔵されていた重要文化財であったことを失念した議論である。そもそもスプリンクラーの設置すらない木造建築に国又は県指定の重要文化財を保管していたこと自体が管理上の注意義務違反であるとの指摘も可能であろう)。
       更に、出火時、首里城公園内に監視員2名、警備員5名が宿直していたが、自動火災報知器が作動すると自動的に消防署に連絡が入る設備がなく、出火を現認しながら、初期消火を断念した監視員が固定電話から電話することでして消防署に火災を通報している。消防署に対する火災の通知が遅れたことも、火災が拡大したことの一因である。
    • (3)消防活動上の障害
       消防隊が出動したが現場に到着するまで相当時間を要しており、漸く城郭近くに到着したが、城郭内の消火栓が使えなかったため、消火栓の確保に手間取り、やっと確保した城郭の消火栓からは長距離に渡ってホースを延ばす必要があった。消火用ホースの延伸についても施錠された門扉等が障害となり、更には、現場に放置されていたイベント用の舞台装置が消防活動の妨げとなった(規制緩和によって沖縄美ら島財団の収益をあげるために財団主宰の自主企画事業が多数企画されていたことも火災の拡大と延焼の原因となった)。
       さらには、消火栓と繋がっていた防火水槽の水量が足りなかったこと(防火水槽の水量を確保しておくことは防火管理における最低限の注意義務である。)などの複数の消防活動上の障害要因が重なったため、現場において消防隊の消火活動能力を十分に発揮することができなかった。
    • (4)防災意識の欠如
       消防署による現場における消火活動における思わぬ障害が多数重なった現実からみて、火災が生じた場合の消火活動に対する事前の準備がなく、そもそも火災が生じた場合のことを全く想定していなかったことが浮き彫りになっている(令和2年度の指定管理者モニタリング検証結果の添付書類によれば平成30年度に「火災訓練は実施した」とあるが、その内容や詳細について財団からの公表はなく、形式的なものに止まるものだったとの疑いを払拭できない)。
       沖縄美ら島財団の関係者における首里城及び所蔵文化財の保全にかかる責任感と防災意識が欠如していたといわざるをえない。

  6. 美ら島財団の管理責任
     焼失した首里城公園の城郭内の正殿をはじめとする6棟の首里城の建築物は、県民の誇りともいうべき歴史的文化財であることはもちろん、その内部に国指定ないし県指定の重要文化財を多数保管していた。沖縄県からの付託を受けてこれら首里城の文化財を管理運営していた沖縄美ら島財団は、台風、火災、震災等の災害や盗難等の事故からこれらの文化財を保全するために最善の注意を尽くすべき管理義務を負っていた。しかも、保全管理に必要な施設の購入や整備を行うに十分な収入を施設入場料等から得ていた。
     出火原因こそ特定されなかったものの、火災の拡大及び延焼については、前記①防火設備の不備による失火発見の遅れと初期消火の不十分、②消防活動上の障害要因による消火活動の不十分、③防災意識の欠如による消火条件の整備不十分にあったことは明らかであり、これらの不十分がなければ、城郭内の正殿をはじめとする建築物6棟の全焼という悲惨な結果を迎えることはなかったと考えられる。
     そして、前記①②③は、いずれも、沖縄県に対し、公園内施設の維持管理及び修繕の責務を担っていた指定管理者である沖縄美ら島財団が、その責任(管理上の最善注意義務)をもって是正ないし整備しておくべきものであり、指定管理者として首里城公園の人場料年間11億3500万円もの収入を計画し(現実には10月31日の焼失によって6億699万円にとどまった。)うち相当部分を自ら収受していたにもかかわらず、その責任に基づく注意義務を尽くすことなく、首里城の焼失を招いてしまった沖縄美ら島財団が、首里城の焼失によって沖縄県が被った損害について全額賠償すべき責任を有することは明らかである。

  7. 沖縄県が被った損害
     沖縄美ら島財団は沖縄県に対し、毎年2億3330万円の「固定納付金」を収めることになっているが、首里城焼失によって沖縄美ら島財団の入場料収入が6億6900万円にとどまり、計画の11億3500万円を大きく下回り、令和元年度の収支は2億9900万円の赤字となったことから、沖縄美ら島財団は1億3600万円しか沖縄県に対して支払わなかった。これによって沖縄県は9730万円の損害を被った。
     首里城の正殿等の建物には、沖縄県指定の重要文化財(黒漆菊花鳥虫七宝繋沈金食籠、黒漆牡丹七宝繋沈金食籠、自了筆白沢之図)が収蔵されていたところ、これらが首里城正殿等の焼失によって甚だしく損傷しており、現在修理中とされているが、いかに修理しても一旦損傷した文化財がその完全な価値を回復することはない。その損害は5000万円を下まわることはない。
     よって沖縄県は、沖縄美ら島財団に対して少なくとも金1億4730万円の損害賠償請の支払いを請求する権利を有している。

  8. 本件住民監査請求について
    • (1)指定管理者の管理責任の追及
       沖縄県民の誇りであった歴史的文化財である首里城公園の正殿等の建設物群の焼失については、出火原因については不明とされているものの、火災による焼失から首里城及び収蔵文化財を護る責務は、指定管理者として「首里城公園内の施設及び附属設備等の維持及び修繕」に関する業務を担っていた(本件条例第4条(4))沖縄美ら島財団にある。
       その首里城及び所蔵文化財の焼失という結果が生じた以上、第1に沖縄美ら島財団の管理責任が厳しく問われなければならない。しかしながら、これまで沖縄県政は、そのことに対する前向きな姿勢を示してきたとはいいがたい。沖縄美ら島財団については、首里城焼失後、全国から寄せられた寄附金をめぐっても、不透明な管理が問題とされているところであり、ネット上では伏魔殿とも称されているところである。
       先般、公開された再発防止検討委員会の調査報告書は、火災の拡大を阻止しえなかった指定管理者の管理責任を取り上げてはいないが、仔細にみれば、沖縄美ら島財団が、指定管理者としてなすべき、首里城の防火対策について、ほとんどなにもしてこなかったことが浮き彫りになっている。
       請求者らは、首里城公園の入場料による莫大な収入をえながら、首里城の防火ないし防災についてほとんどなにもしてこなかった沖縄美ら島財団の管理責任をきちんと追及するべく、本監査請求に及んだ。真に再発防止を目指す所以である。
    • (2)根拠条文について
       地方自治法242条1項は、普通地方公共団体の長等による違法若しくは不当な《財務会計上の行為》があるとき、若しくは、違法若しくは不当に財産の管理を《怠る事実》があると認めるときは、監査を求め、当該行為を是止し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によって当該普通地方公共団体の被った損害を塡補するために必要な措置を講ずべきことを請求することができるとしている。
       本件住民監査請求は、令和元年10月31日に生じた首里城焼失によって沖縄県に生じている莫大な被害につき、首里城の焼失を防止する管理義務を負っていた指定管理者たる美ら島財団に対する沖縄県の損害賠償請求権の行使を怠る事実の違法を是正することを求めるものである。
    • (3)期間制限について
       地方自治法242条2項本文は「前項の規定による請求は、当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したときは、これをすることができない」と規定する。怠る事実の監査請求については原則として監査請求期間の規定の適用はない(最高裁第3小法廷昭和53年6月23日判決)。
       例外的に違法又は不当な財務会計上の行為によって生じた債権の行使を怠る事実(不真正怠る事実)による監査請求には期間制限の適用がある(最高裁第2小法廷62年2月20日判決)が、本件は沖縄美ら島財団の管理義務違反ないし不法行為によって生じた損害賠償請求債権の行使を怠る事実による住民監査請求であるため期間制限の適用はない(最高裁第3小法廷平成14年7月2日判決参照)。

事実証明文書

文書1 中間報告書概要(再発防止検討委員会)

文書2 琉球新報記事(令和3年5月29日10時48分)

以 上


©沖縄県政の刷新を求める会